自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば、費用をかけずに自分で作れる遺言です。
この記事では、民法968条と法務局の案内に沿って、無効にならない書き方・そのまま使える文例・法務局に預ける保管制度を説明します。
- 自筆証書遺言が無効にならないための4つの要件
- パソコンで作ってよい部分(財産目録)と、その条件
- よくある場面ごとの文例
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度の手数料と様式のルール
自筆証書遺言の4つの要件(民法968条)

| 要件 | ポイント |
|---|---|
| 1. 全文を自分で手書きする | 本文はパソコン・代筆不可。財産目録だけは例外(下で説明) |
| 2. 日付を手書きする | 作成日が特定できるように書く。「令和〇年〇月吉日」は日付が特定できないため不可 |
| 3. 氏名を手書きする | 戸籍どおりのフルネームで書くのが確実 |
| 4. 押印する | 法律上は認印でもよいが、実印を使うと本人が作った証明として確実 |
財産目録はパソコンで作ってよい(2019年1月13日から)
遺言書に添付する財産目録は、手書きでなくてもかまいません。
パソコンで作った一覧表や、登記事項証明書・通帳のコピーを目録として付けることもできます。
書き間違えたときの直し方
訂正や書き足しには、民法で決まった方法があります。
- 訂正する場所がわかるように示す(二重線で消して、正しい文字を書く)
- 余白に「〇行目〇字削除〇字加入」のように、変更した旨を書く
- その付記の横に署名する
- 訂正した場所に押印する
この方法を守らないと、訂正が無効になります。書き間違えが多いときは、最初から書き直したほうが確実です。
自筆証書遺言の文例

以下は、よくある場面の文例です。〇〇の部分を書き換え、全文を手書きしてください。
文例1:妻にすべての財産を相続させる
遺言書
第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、前条の妻〇〇〇〇を指定する。
令和〇年〇月〇日
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 印
文例2:不動産は長男、預金は長女に分ける
遺言書
第1条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、遺言者の長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(1)土地 所在 〇〇市〇〇町〇丁目 地番 〇番〇 地目 宅地 地積 〇〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物 所在 〇〇市〇〇町〇丁目〇番地〇 家屋番号 〇番〇 種類 居宅 構造 木造瓦葺2階建 床面積 1階〇〇.〇〇平方メートル 2階〇〇.〇〇平方メートル
第2条 遺言者は、遺言者の有する次の預金を、遺言者の長女〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
第3条 遺言者は、この遺言に記載のない財産を、前記長男〇〇〇〇に相続させる。
令和〇年〇月〇日
住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
遺言者 〇〇〇〇 印
文例3:相続人ではない人(孫・長男の妻など)に財産を渡す
第〇条 遺言者は、遺言者の有する次の預金を、遺言者の長男の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生、住所〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号)に遺贈する。
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
文例の書き方のポイント
- 「相続させる」と「遺贈する」:相続人に渡すときは「相続させる」、相続人でない人に渡すときは「遺贈する」と書き分けます
- 人の特定:続柄と氏名に加えて、生年月日を書いておくと同姓同名の取り違えを防げます
- 不動産の特定:登記事項証明書のとおりに書きます。住所(住居表示)と地番は違うことがあるので注意します
- 記載のない財産:「この遺言に記載のない財産は〇〇に相続させる」と入れておくと、書き漏れた財産で相続人全員の遺産分割協議が必要になる事態を防げます
- 遺言執行者:遺言の内容を実現する人を指定しておくと、預金の解約などの手続きが進めやすくなります
遺留分に気をつける
配偶者・子・親には、遺言でも奪えない最低限の取り分(遺留分)があります。
たとえば子がいるのに「全財産を妻に」と書くと、子から妻へ遺留分に相当するお金の支払いを求められる可能性があります。
兄弟姉妹には遺留分はありません。誰が相続人になるかは法定相続人の範囲と順位で確認できます。
法務局の自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日から、自分で書いた遺言書を法務局に預けられるようになりました。
自宅で保管する場合との違い
| 自宅などで保管 | 法務局に預ける | |
|---|---|---|
| 紛失・書き換えのおそれ | ある | 原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間、法務局が保管 |
| 形式のチェック | なし | 預けるときに、民法の形式に合っているかを外形的に確認してもらえる(内容の相談や有効性の保証はない) |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 |
| 相続人への知らせ | なし | 相続人の1人が閲覧などをすると、ほかの相続人全員に通知が届く。遺言者が希望すれば、死亡が確認された時点で指定した人(3人まで)にも通知が届く |
| 費用 | 0円 | 保管の申請1通につき3,900円(収入印紙) |
法務局に預けるときの様式のルール

民法の要件に加えて、保管制度では次の様式を守る必要があります。守られていないと、書き直さないと預かってもらえません。
- 用紙はA4サイズ。文字が読みにくくなる模様や色がないもの(一般的な罫線は可)
- 余白を必ず確保する:上5ミリ・下10ミリ・左20ミリ・右5ミリ以上。余白に1文字でもはみ出すと不可
- 片面だけに書く(財産目録も同じ)
- 2枚以上なら、各ページの余白内に「1/2」「2/2」のようにページ番号を書く
保管の申請の流れ
- 上のルールに沿って遺言書を書く
- 保管を申請する法務局を決める(遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局)
- 申請書を用意し、法務局に予約を入れる
- 遺言者本人が法務局に行き、遺言書・申請書・本人確認書類・手数料を出す
申請は遺言者本人が出向く必要があり、代理人や郵送では申請できません。
自宅で保管していた遺言書が見つかったら
法務局に預けていない自筆証書遺言は、見つけた人や保管していた人が、遅滞なく家庭裁判所に提出して「検認」を受けなければなりません。
封がされている遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いのもとで開封します。勝手に開けると過料の対象になります。
検認を受けないと、遺言書を使って相続登記や預金の解約をすることができません。
家庭裁判所に出す書類の作成は、弁護士・司法書士の業務です。
財産目録の作り方
財産目録は、遺言書に添付する「財産の一覧表」です。
2019年1月13日から、目録はパソコンで作ったり、通帳や登記事項証明書のコピーを使ったりできるようになりました。
目録の作り方は3通り
| 方法 | やり方 |
|---|---|
| パソコンで一覧表を作る | 不動産・預金などを表にして印刷する |
| 登記事項証明書のコピーを付ける | 不動産は登記事項証明書をそのままコピーする |
| 通帳のコピーを付ける | 銀行名・支店名・口座番号・名義がわかるページをコピーする |
目録を付けるときの注意点
- 目録のすべてのページに署名と押印をする
- 両面に印刷やコピーがあるときは、両面に署名と押印をする
- 本文では「別紙目録1の不動産を長男〇〇に相続させる」のように、目録と本文を対応させる
- 法務局に預ける場合は、目録も片面だけにし、余白のルールを守る
本文は手書きが必要ですが、財産の細かい表示を目録にまとめれば、手書きする量を大きく減らせます。
遺言書で決められること
遺言書には何を書いてもかまいませんが、法的な効力があるのは、法律で決められた事柄に限られます。
主なものは次のとおりです。
| 分野 | 決められること |
|---|---|
| 財産 | 誰にどの財産を渡すか、相続分をどうするか、相続人以外の人に渡す(遺贈) |
| 身分 | 子を認知する、未成年の子の後見人を指定する |
| 手続き | 遺言執行者を指定する |
| 相続人 | 虐待などをした相続人を廃除する意思を示す |
付言事項で気持ちを伝える
法的な効力はありませんが、遺言書の最後に家族への思いを書くこともできます。これを「付言事項」といいます。
たとえば「長男に家を継がせるのは、同居して介護してくれたからです」と理由を書いておくと、ほかの家族が納得しやすくなります。
分け方に差をつける場合は、理由を書いておくことで、相続人同士の争いを防ぐ効果が期待できます。
無効になりやすい書き方

| 書き方 | なぜ危ないか |
|---|---|
| 日付が「令和〇年〇月吉日」 | 日付が特定できず無効になる |
| 本文をパソコンで作って署名だけ手書き | 全文の手書きという要件を満たさない |
| 家族に代わりに書いてもらった | 本人の手書きではないため無効 |
| 夫婦が1枚の紙に連名で書いた | 共同遺言は禁止されている |
| 「自宅を長男に任せる」 | 「任せる」が相続させる意味か管理を頼む意味か、解釈が分かれるおそれ |
| 財産が「預金」としか書かれていない | どの口座か特定できないおそれ |
財産を渡すときは「相続させる」「遺贈する」とはっきり書き、財産は特定できるように書くのが基本です。
検認の流れ(法務局に預けなかった場合)
自宅などで保管していた自筆証書遺言は、相続が始まったら家庭裁判所で検認を受けます。
裁判所の案内によると、流れは次のとおりです。
- 遺言書を保管していた人、または見つけた相続人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てる
- 家庭裁判所から、相続人全員に検認の日が知らされる
- 検認の日に、出席した相続人の立会いのもとで、裁判官が遺言書を開封し、内容を確認する(全員がそろわなくても行われる)
- 検認が終わったら、検認済証明書を申請する
費用は、遺言書1通につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。
検認済証明書の申請には、遺言書1通につき150円分の収入印紙が必要です。
検認は、遺言書の状態を確認して偽造などを防ぐための手続きで、遺言が有効かどうかを判断するものではありません。
遺言書の3つの種類を比べる
普通の遺言には、自筆証書遺言のほかに、公正証書遺言と秘密証書遺言があります。
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
|---|---|---|---|
| 作る人 | 本人が手書き | 公証人(本人が内容を伝える) | 本人(パソコン可)。署名は自筆 |
| 証人 | 不要 | 2人必要 | 2人必要 |
| 費用 | ほぼ0円(法務局保管は3,900円) | 公証人の手数料がかかる | 公証人の手数料がかかる |
| 形式の不備で無効になるおそれ | ある | 小さい | ある |
| 検認 | 必要(法務局保管なら不要) | 不要 | 必要 |
| 向いている人 | 費用をかけずに、自分のペースで作りたい | 確実に残したい・財産が多い | 内容を誰にも知られたくない |
実際に多く使われているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
自筆証書遺言を法務局に預ければ、紛失や検認の心配がなくなり、公正証書遺言との差が小さくなります。
書き始める前の準備
遺言書は、いきなり書き始めるより、次の準備をしてから書いたほうが、書き直しが少なくなります。
1. 財産を書き出す
不動産、預貯金、株式、保険、車など、自分の財産をすべて一覧にします。
不動産は登記事項証明書を、預金は通帳を手元に用意しておくと、正確に書けます。
2. 相続人を確認する
誰が相続人になるかを確認します。前の結婚の子など、忘れやすい相続人がいないか注意しましょう。
相続人の範囲は法定相続人の範囲と順位で確認できます。
3. 誰に何を渡すかを決める
財産の一覧を見ながら、誰に何を渡すかを決めます。
配偶者・子・親には遺留分があるので、極端に少なくなる人がいないかも確認しておきましょう。
4. 遺言執行者を決める
遺言の内容を実現する人を「遺言執行者」といいます。
財産を受け取る相続人の1人を指定することも、専門家を指定することもできます。
遺言執行者がいると、預金の解約や不動産の名義変更を、ほかの相続人の協力がなくても進めやすくなります。
遺言書を書いたあとの保管
| 保管方法 | メリット | 気をつけること |
|---|---|---|
| 法務局に預ける | 紛失・改ざんの心配がない。検認不要。死亡時に通知も届けられる | 本人が法務局に行く必要がある。3,900円かかる |
| 自宅で保管 | 費用がかからない | 見つけてもらえない・捨てられるおそれ。検認が必要 |
| 信頼できる人に預ける | 見つけてもらいやすい | 預けた人が先に亡くなるなどのおそれ。検認が必要 |
自宅で保管する場合は、封筒に入れて封をし、「遺言書在中」「開封せずに家庭裁判所に提出すること」と書いておくと、勝手に開けられるのを防げます。
2026年6月に成立した遺言制度の見直し
2026年6月17日、遺言制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立し、6月24日に公布されました。
自筆証書遺言に関係する主な変更は、次の2つです。
| 変更点 | 内容 | 施行 |
|---|---|---|
| 押印の任意化 | 遺言書に押印がなくても、ほかの要件を満たせば有効になる | 公布から1年以内の政令で定める日 |
| 保管証書遺言の創設 | パソコンなどで作った遺言のデータや印刷物を法務局に出し、本人が対面またはウェブ会議で全文を口述するなどして、法務局が保管する新しい方式 | 公布から3年以内の政令で定める日 |
施行日が決まったら、この記事でもお知らせします。
法務局に預ける手続きの詳細(予約・持ち物・手数料・相続人の手続き)は自筆証書遺言書保管制度で解説しています。
遺言書の下書き用文例集(Word・無料)
この記事の文例を含め、よく使う6つの文例を1つのWordファイルにまとめました。
- 配偶者にすべての財産を相続させる
- 配偶者が先に亡くなった場合の備え(予備的遺言)
- 不動産は長男、預金は長女に分ける
- 相続人ではない人(内縁の配偶者・長男の妻・孫など)に渡す
- 証券口座の金融資産をまとめて渡す
- 付言事項で気持ちを伝える
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を手書きする必要があります。
この文例集は下書き用として使い、清書は必ず手書きしてください。
遺言書とあわせて、財産の情報や希望はエンディングノートにまとめておくと家族が助かります。
遺言の内容を実現する人の決め方は遺言執行者とはで説明しています。
相続人以外に財産を渡す遺贈については遺贈とはで解説しています。
遺言書と合わせて考えたい終活の準備は、終活でやることリスト(チェックリストWord無料)で説明しています。
遺言書と合わせて相続税の対策を考える場合は、税理士に相談すると具体的な税額を確かめられます。
遺言書に付ける財産目録の書き方と署名押印のルールは、財産目録の書き方とひな形(Excel・Word・無料)で説明しています。
よくある質問
夫婦で1枚の遺言書を書けますか?
書けません。2人以上が同じ書面で遺言をすること(共同遺言)は民法で禁止されています。夫婦でも1人ずつ別々に作ります。
遺言書を書き直したくなったら?
いつでも新しい遺言書を書けます。前の遺言と内容が食い違う部分は、新しい遺言が優先されます。
法務局に預けている場合は、保管の申請を撤回して返してもらうこともできます(撤回に手数料はかかりません)。
公正証書遺言とどちらがいいですか?
自筆証書遺言は費用が安く、1人で作れるのが長所です。
公正証書遺言は公証人が作成するため形式の不備で無効になるおそれが小さく、検認も不要ですが、公証人の手数料がかかり、証人2人が必要です。
財産が多い・相続人の関係が複雑なら公正証書遺言を検討する価値があります。
エンディングノートは遺言書の代わりになりますか?
なりません。
エンディングノートは気持ちや希望を書き残すものとしては便利ですが、民法の要件を満たさない限り、遺言としての効力はありません。
遺言書はボールペンで書けばいいですか?
消えにくいボールペンや万年筆で書くのが安全です。
鉛筆や、こすると消えるペンは、書き換えを疑われるおそれがあるので避けましょう。
何歳から遺言書を書けますか?
民法では、15歳になれば遺言をすることができます。
認知症と診断されていても書けますか?
遺言をするときに、自分のしていることを理解できる力(遺言能力)が必要です。
診断を受けていても直ちに書けないわけではありませんが、後で有効性を争われるおそれがあります。
気になる場合は、公証人が関与する公正証書遺言を検討しましょう。
遺言書に書いた財産を、生きているうちに売ってもいいですか?
かまいません。遺言書を書いたあとも、財産は自由に使ったり売ったりできます。
遺言と違う行動(遺言で長男に渡すとした土地を売ったなど)をした場合は、その部分の遺言を撤回したものとみなされます。
押印は拇印でもいいですか?
判例では拇印でも有効とされたことがありますが、本人のものかどうかを確かめにくく、争いのもとになります。
実印か、少なくとも普段使っている印鑑で押印するのが安全です。
遺言書を封筒に入れる必要はありますか?
法律上の決まりはありません。
封をした遺言書は、家庭裁判所で開封する決まりなので、勝手に開けないよう封筒に書き添えておきましょう。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:民法968条(e-Gov法令検索)/法務省「自筆証書遺言書保管制度」(遺言書保管制度とは・遺言書の様式等についての注意事項・手数料・通知)

