「自分が亡くなったあと、葬儀や片づけ、解約の手続きをだれがするのか」。
子どもがいない人、親族が遠い人、頼みにくい人には、切実な問題です。
死後事務委任契約は、こうした亡くなったあとの手続きを、生きているうちに人に頼んでおく契約です。
この記事では、民法と、内閣官房などが2024年6月に出した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」をもとに、仕組みと書き方を説明します。
遺言書・任意後見との違い、費用、契約書に入れておくべき条項も整理しました。
- 死後事務委任契約は、亡くなったあとの事務(葬儀・納骨・届出・解約・片づけ)を頼む契約。財産の分け方は決められない(それは遺言書)
- 民法では委任は本人の死亡で終わる(653条)。だから「死亡しても契約は終了しない」と契約書に書くことが最大のポイント
- 頼めないこともある。税の申告は相続人の義務で頼めない。公共料金・携帯の解約は、事前に各社へ確認が必要
- 費用は「契約書の作成」「公証役場の手数料」「受任者の報酬」「実費(預託金)」の4つに分けて確かめる
- 相続人ともめないために、推定相続人に事前に説明し、報告先と預託金の精算方法を決めておく
死後事務委任契約とは

死後事務委任契約は、自分が亡くなったあとに必要になる事務を、信頼できる人や事業者に頼んでおく契約です。
頼む人を「委任者」、引き受ける人を「受任者」といいます。
法律上は、民法の委任(643条)または準委任(656条)にあたります。
頼める事務の例は、次のとおりです。
| 分野 | 事務の例 |
|---|---|
| 連絡 | 亡くなったことを親族・友人・関係機関に知らせる |
| 葬送 | 葬儀・火葬・埋葬・納骨、供養や法要の手配 |
| 届出 | 死亡届の提出、年金・医療保険・介護保険の手続き |
| 支払い | 入院費・施設の費用・家賃など未払いの精算 |
| 解約 | 賃貸住宅の解約、電気・ガス・水道、携帯電話、インターネット、サブスクの解約 |
| 片づけ | 家財の処分、形見分け、遺品整理の手配、パソコンやSNSのデータの処理 |
| ペット | 引き取り先への引き渡し |
どこまで頼むかは、本人の希望で決めます。
ガイドラインは、費用の上限や対応する期間の目安、葬儀の見積もりを取る件数などを、事前に決めておく工夫を挙げています。
遺言書・任意後見契約との違い

似た制度に、遺言書と任意後見契約があります。
カバーする「時期」と「内容」が違うので、組み合わせて使うことが多くあります。
| 死後事務委任契約 | 遺言書 | 任意後見契約 | |
|---|---|---|---|
| いつのこと | 亡くなったあと | 亡くなったあと | 生きているあいだ(判断能力が落ちたあと) |
| 何を決める | 葬儀・届出・解約などの事務 | 財産をだれに渡すか、遺言執行者など | 財産の管理、介護や施設の契約 |
| 形式 | 自由(公正証書が一般的) | 民法の方式に従う(自筆・公正証書など) | 公正証書が必要(任意後見契約法3条) |
| 相手 | 受任者と契約する | 1人で書ける | 任意後見受任者と契約する |
遺言書では、財産の行き先は決められますが、葬儀の方法などは法的な拘束力がありません。
反対に、死後事務委任契約では、財産をだれに渡すかは決められません。
財産の行き先も決めたいときは、遺言書を別に作ります。
書き方は自筆証書遺言の書き方と公正証書遺言の必要書類と費用で説明しています。
任意後見契約は任意後見とはをご覧ください。
遺言執行者に頼めること、頼めないこと
遺言執行者は、遺言の内容を実現する人です(民法1012条)。
財産を渡す手続きはできますが、葬儀や解約などの事務は、遺言執行者の仕事ではありません。
同じ人に両方を頼むなら、遺言書で遺言執行者に指定し、別に死後事務委任契約を結びます。
遺言執行者の役割は遺言執行者とはで説明しています。
だれに頼めるか
受任者になるのに、資格は要りません。
親族、友人、知人のほか、専門家や事業者に頼めます。
| 頼む相手 | 特徴 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 親族・友人 | 費用を抑えられる。希望を伝えやすい | 相手が先に亡くなる、高齢になるおそれ。負担が重くなりすぎないか |
| 行政書士・司法書士・弁護士など | 契約書の作成から実行まで一貫して頼める | 報酬の決め方、事務所が続くか(法人か個人か) |
| 身元保証・終身サポートの事業者 | 生前の見守りや身元保証とセットで頼める | 預託金の管理、解約時の返金、事業者が倒産したときの扱い |
| 社会福祉協議会など | 地域によっては低所得者向けの事業がある | 対象者・内容が地域で違う |
事業者に頼むときは、ガイドラインの別紙「チェックリスト」が使えます。
消費者庁は、契約の前にサービスの内容と自分の支払能力を確かめ、不安があれば消費生活センターや地域包括支援センターに相談するよう呼びかけています。
契約書に書くこと(条項のポイント)

死後事務委任契約書に決まった様式はありません。
ガイドラインが事業者に求めている内容をもとに、整理します。
1. 「死亡しても契約は終了しない」と書く
民法では、委任契約は委任者が亡くなると終了します(653条1号)。
そのままでは、亡くなった瞬間に契約が終わってしまい、死後の事務を頼む意味がなくなります。
最高裁は、委任者が亡くなっても契約を終わらせない合意は有効としています(最高裁平成4年9月22日判決)。
ガイドラインも、次の趣旨の文言を明記するよう求めています。
委任者が死亡した場合においても、本契約は終了せず、相続人は、委任者の本契約上の権利義務を承継する。
2. 頼む事務を具体的に列挙する
「死後の事務一切」とだけ書くと、受任者がどこまでやるのか分からず、相続人ともめやすくなります。
葬儀の形式(家族葬・直葬など)、納骨先、連絡する相手、解約する契約、処分する家財を、できるだけ具体的に書きます。
葬儀や納骨の希望は、エンディングノートに書いたものを契約書に反映させると整理しやすくなります。
エンディングノートの書き方もあわせてご覧ください。
3. 費用と預託金の扱いを決める
葬儀費用や未払金などの実費は、受任者が立て替えるか、前もって預けておく(預託金)のが一般的です。
ガイドラインは、預託金を受け取る事業者に、次のことを求めています。
- 事務の内容に照らして、的確な預託金の額を算定する
- 本人と推定相続人に丁寧に説明する
- 亡くなったあと、残った預託金を返すかどうか、返す額をあらかじめ決めておく
個人に頼む場合も同じです。
預けた金額、使いみち、残金の返し先(相続人のだれか)を契約書に書いておきます。
4. 報酬を決める
受任者への報酬を払うか、払うならいくらかを書きます。
親族や友人に頼むときは無報酬でもかまいませんが、負担が大きい事務では、報酬を決めておくほうが続けやすくなります。
5. 報告する相手を決める
受任者は、事務が終わったら経過と結果を報告する義務があります(民法645条)。
報告の相手は、亡くなった本人の地位を引き継いだ相続人です。
相続人が何人もいると、全員への報告が難しくなります。
ガイドラインは、推定相続人のうち特定の人に報告すれば足りると契約で決めておくことを挙げています。
6. 相続人が反対したときの辞任条項
本人と相続人の関係に問題がある場合、相続人が死後事務に反対することがあります。
ガイドラインは、次の趣旨の規定を入れることも考えられるとしています。
委任者の相続人からの反対等により、委任事務の履行が不可能又は著しく困難となった場合には、受任者は委任者の相続人に対する意思表示により、受任者としての地位を辞任することができる。
7. 解除・変更の方法
生きているあいだに、頼む内容を変えたり、契約をやめたりすることがあります。
解除の方法、払った費用や預託金の返し方を決めておきます。
事業者との契約では、解約料の扱いは消費者契約法の制限を受けます。
頼めないこと・事前確認がいること
死後事務委任契約で何でも頼めるわけではありません。
ガイドラインが挙げている注意点を整理します。
| 事務 | 扱い |
|---|---|
| 亡くなった年の所得税の申告(準確定申告) | 納税義務者は相続人(いなければ相続財産法人)。死後事務委任契約では対応できない |
| 財産をだれに渡すか | 遺言書で決める。死後事務委任契約では決められない |
| 年金の受給権者死亡届 | マイナンバーが登録されていれば、市区町村に死亡届を出すと原則省略できる |
| 電気・ガス・水道の解約 | 受任者が手続きできない事業者もある。事前に確認する |
| 携帯電話の解約 | 手続きできない事業者もある。契約書などの資料を求められることもある |
| 賃貸住宅の解約と残置物の処理 | 国土交通省・法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を参考に契約する。大家にも依頼内容を伝えておく |
準確定申告は準確定申告とはで説明しています。
公正証書にするメリットと手数料
死後事務委任契約は、私文書でも有効です。
それでも公正証書にするのが一般的なのは、次の理由からです。
- 公証人が本人の意思と判断能力を確認するので、あとから無効を主張されにくい
- 原本が公証役場に保管され、紛失や改ざんの心配がない
- 役所・金融機関・葬儀社などに示したとき、信用されやすい
公証役場の手数料は、公証人手数料令で決まっています。
法律行為の目的の価額が算定できないときは、500万円とみなして計算します(公証人手数料令16条)。
500万円の区分の手数料は1万3,000円です(公証人手数料令9条別表・200万円超500万円以下)。
このほか、正本・謄本に相当する電子データや書面の交付手数料、紙の原本が3枚を超えるときの加算があります。
報酬や預託金の定め方で計算が変わることがあるので、実際の額は公証役場に確かめてください。
任意後見契約と同時に作るときは、それぞれに手数料がかかります。
費用の全体像
死後事務委任契約の費用は、4つに分けて考えます。
| 費用 | 内容 | だれに払う |
|---|---|---|
| 契約書の作成費用 | 専門家に文案の作成を頼むときの料金 | 専門家 |
| 公証役場の手数料 | 公正証書にするときの法定の手数料 | 公証役場 |
| 受任者の報酬 | 死後の事務を実行することへの対価 | 受任者 |
| 実費(預託金) | 葬儀代・納骨費用・未払金・処分費など、実際にかかるお金 | 葬儀社など(受任者が立て替えまたは預託金から精算) |
金額は、頼む相手と事務の範囲で大きく変わります。
ガイドラインは事業者に、入会金や預託金などを区分して示し、サービスごとの費用を明らかにするよう求めています。
見積もりは「何にいくら」が分かれているか、残金の返し方が書いてあるかを確かめましょう。
実費の中でいちばん大きいのは葬儀とお墓です。
希望する形と費用の目安は、お墓を建てる費用と流れと永代供養と樹木葬の違いで確かめられます。
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相続人とのトラブルを防ぐ
死後事務委任契約で起きやすいもめごとは、相続人とのあいだのものです。
「知らないうちに葬儀が終わっていた」「預託金の残りが返ってこない」といった形で表面化します。
ガイドラインは、次の対策を挙げています。
- 本人の意思に反しないかぎり、契約内容を推定相続人に事前に説明し、できるだけ了解を得る
- 本人が相続人に知らせたくない場合は、事務の実行が難しくなる可能性を本人に説明する
- 報告先・預託金の精算方法・残金の返し先を契約書に書く
- 相続人の反対で実行できないときの辞任条項を入れる
相続人がだれになるかは法定相続人の範囲と順位で確かめられます。
契約を結ぶまでの流れ
-
STEP 1希望を整理する葬儀・納骨・連絡先・解約する契約・家財の処分をエンディングノートなどに書き出す
-
STEP 2受任者を決める親族・友人・専門家・事業者から選ぶ。事業者ならガイドラインのチェックリストで確かめる
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STEP 3推定相続人に説明する内容と費用を共有し、了解を得る
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STEP 4契約書の文案を作るこの記事の条項のポイントを押さえる
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STEP 5公証役場で公正証書にする本人確認書類(印鑑登録証明書と実印、または運転免許証など)を持参する
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STEP 6関係者に知らせるかかりつけ医・ケアマネジャー・大家・親しい人に受任者の連絡先を伝える
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STEP 7見直す住まいや希望が変わったら、契約を変更する
受任者の連絡先は、本人が身につけておく、自宅の分かりやすい場所に掲示するといった方法も、ガイドラインに挙がっています。
契約書のひな形(Word・無料)
この記事のポイントを反映した、契約書の条項例をWordで用意しました。
個人に頼む場合を想定しています。
無料ダウンロード
ひな形に入れた条項は、次のとおりです。
- 契約の目的(委任者の死亡後の事務を委任する)
- 委任事務の範囲(連絡・葬送・届出・支払い・解約・片づけ)
- 葬送の希望(形式・納骨先)
- 費用の負担と預託金(額・使いみち・残金の返し先)
- 報酬
- 契約の効力(死亡しても終了しない・相続人が承継)
- 報告(報告先を特定の相続人にする)
- 受任者の辞任(相続人の反対で履行が困難なとき)
- 契約の変更と解除
- 署名欄
ひな形はあくまで出発点です。
頼む相手や財産の状況で必要な条項は変わるので、公証人や専門家に文案を確認してもらってください。
ケース別:こんなときはどうする
子どもがいない夫婦
どちらかが先に亡くなると、残った1人の死後事務をする人がいなくなります。
夫婦それぞれが契約しておくか、2人目の死後に備えて受任者を決めておきます。
財産の行き先は子どものいない夫婦の相続で説明しています。
親族はいるが疎遠
相続人がいる以上、報告義務と預託金の精算は相続人に向けて行われます。
疎遠でも、契約したことと受任者の連絡先だけは伝えておくと、実行が止まりにくくなります。
伝えたくない場合は、辞任条項と、相続人が反対したときの代替案を受任者と話しておきます。
賃貸住宅に1人で住んでいる
賃貸借契約の解除と残置物の処理を、死後事務委任契約に入れておきます。
国土交通省・法務省のモデル契約条項が参考になります。
大家や管理会社にも、受任者の連絡先と依頼内容を伝えておきましょう。
相続人がだれもいない
相続人がいなければ、残った財産は最終的に国庫に入ります。
死後事務委任契約で葬儀や片づけを頼み、財産の行き先は遺言書で決めておくと、希望どおりに整理できます。
手続きの流れは相続財産清算人とはで説明しています。
お金の準備もあわせて考える
葬儀や納骨の実費を預託金で用意するほか、保険で準備する方法もあります。
死亡保険金は受取人固有の財産として、相続手続きを待たずに受け取れるのが一般的です。
受取人を受任者や親族にして葬儀費用にあてる使い方は、死亡保険金と相続税で説明しています。
老後資金と死後の費用をまとめて見直したい場合は、お金の専門家に相談するのも方法です。
死亡届の届出人になれる人と書き方は死亡届の書き方と出し方で説明しています。
よくある質問
死後事務委任契約だけで、財産の行き先も決められますか?
決められません。
財産をだれに渡すかは、遺言書で決めます。
死後事務委任契約と遺言書は、セットで作るのが一般的です。
公正証書にしないと無効ですか?
無効ではありません。
私文書でも契約は成立します。
受任者が先に亡くなったらどうなりますか?
個人に頼んでいた場合、受任者が亡くなると契約は終了します(民法653条1号)。
予備の受任者を決めておくか、法人に頼む方法があります。
定期的に見直して、頼める状態かを確かめましょう。
費用はいくらぐらいかかりますか?
頼む相手と事務の範囲で大きく違います。
公証役場の手数料は法定で、目的の価額が算定できないときは500万円とみなして1万3,000円の区分になります。
契約書の作成費用・受任者の報酬・実費は、見積もりで「何にいくら」を確かめてください。
途中でやめられますか?
やめられます。
委任契約は、各当事者がいつでも解除できます(民法651条)。
預託金や前払いした費用の返し方は、契約書の定めによります。
事業者との契約では、解約料の扱いに消費者契約法の制限があります。
相続放棄をする予定の親族が受任者になれますか?
なれます。
死後事務委任契約の受任者になることと、相続放棄は別の問題です。
放棄を考えている人が受任者になるときは、費用をどのお金から出すかを、事前に弁護士に相談してください。
詳しくは相続放棄とはをご覧ください。
行政書士に頼めますか?
頼めます。
行政書士は、契約書などの権利義務に関する書類の作成を業務としています(行政書士法1条の2)。
受任者になる場合は、報酬と事務の範囲を契約書で明確にします。
相続人との争いが見込まれる場合は、弁護士に相談してください。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:内閣官房・内閣府・金融庁・消費者庁・総務省・法務省・厚生労働省・国土交通省「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(令和6年6月)/消費者庁「いわゆる『高齢者等終身サポート事業』の利用に関する注意点」/公証人手数料令9条・16条/日本公証人連合会「公正証書遺言Q&A」/民法643条・645条・651条・653条・656条・921条・1012条/最高裁平成4年9月22日判決。契約の条件は相手ごとに異なります。契約の前に、公証人や専門家に文案を確認してください。

