相続人が全員相続放棄をしたり、そもそも相続人がいなかったりすると、亡くなった方の家や預金、借金は誰が整理するのでしょうか。
このような場合に、家庭裁判所が選ぶのが「相続財産清算人」です。
2023年4月の民法改正で、それまでの「相続財産管理人」から名前が変わり、手続きの期間も短くなりました。
この記事では、民法と裁判所の案内をもとに、相続財産清算人の役割、選任が必要になる場面、申立ての方法と費用、手続きの流れを説明します。
- 相続財産清算人は、相続人がいるかどうか分からないとき(全員が相続放棄した場合を含む)に、家庭裁判所が選ぶ人
- 亡くなった方の借金を払うなどして財産を清算し、残った財産は国のものになる(特別縁故者に分けられることもある)
- 申立てできるのは、債権者・特定遺贈を受けた人・特別縁故者などの利害関係人と検察官
- 費用は収入印紙800円、郵便切手、官報公告料5,582円。財産が少ないときは予納金を求められることがある
- 相続放棄をしても、放棄の時に財産を実際に管理していた人は、引き渡すまで保存の義務がある(民法940条)
相続財産清算人とは
相続財産清算人は、相続人がいるかどうか明らかでないときに、家庭裁判所が利害関係人などの申立てにより選ぶ人です(民法952条)。
相続人が全員相続放棄をして、結果として相続する人がいなくなった場合も含まれます。
相続財産清算人は、亡くなった方の債権者などに借金を払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させます。
弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。
相続財産管理人との違い

2023年4月1日の民法改正で、相続人がいない場合に清算を行う人の名前が「相続財産管理人」から「相続財産清算人」に変わりました。
あわせて、相続人を探すための公告の手続きがまとめられ、清算にかかる期間が短くなりました。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2023年4月から) |
|---|---|---|
| 名前 | 相続財産管理人 | 相続財産清算人 |
| 公告 | 選任の公告、債権者への公告、相続人捜索の公告を順番に行う | 選任の公告と相続人捜索の公告をまとめて行い、債権者への公告と同時に進められる |
| 相続人が出てくるまでの期間の目安 | 最低でも10か月程度 | 最低でも6か月程度 |
なお、相続人がいる場合に、相続人に代わって財産を管理する「相続財産管理人」の制度も別にあります(民法897条の2)。
選任が必要になる場面
| 場面 | 申し立てる人の例 |
|---|---|
| 亡くなった方にお金を貸していて、返してもらいたい | 債権者(金融機関、貸主など) |
| 遺言で特定の財産を遺贈されたが、渡す人がいない | 特定遺贈を受けた人 |
| 長年介護をした内縁の妻などが、財産の分与を受けたい | 特別縁故者 |
| 相続人のいない空き家が放置され、周辺に危険がある | 市区町村長(空家法による請求) |
| 相続放棄をしたが、管理している家を引き渡したい | 財産を管理している元相続人 |
相続放棄の手続きは相続放棄とはで説明しています。
申立ての方法と費用

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(債権者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)、検察官 |
| 申立先 | 亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 収入印紙 | 800円分 |
| 郵便切手 | 裁判所ごとに異なる |
| 官報公告料 | 5,582円(家庭裁判所の指示があってから納める) |
| 予納金 | 財産から清算人の報酬などの費用が出せないおそれがある場合に、申立人が納めることがある |
主な添付書類
- 亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 亡くなった方の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
- 亡くなった子や兄弟姉妹がいる場合は、その人の出生時から死亡時までの戸籍謄本など
- 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票
- 財産を示す資料(不動産の登記事項証明書、通帳の写しなど)
- 利害関係を示す資料(契約書の写しなど)
- 清算人の候補者がいる場合は、その人の住民票または戸籍附票
相続人がいないことを示すため、多くの戸籍が必要になります。
戸籍の集め方は相続の戸籍謄本の集め方で説明しています。
予納金について
相続財産から清算人の報酬や管理の費用を払えない場合に備えて、申立人に予納金を納めてもらうことがあります。
金額は財産の内容などによって家庭裁判所が決めるため、申立ての前に確認しましょう。
財産が多く、費用をまかなえる場合は、予納金が少なくて済むこともあります。
選任後の手続きの流れ

- 家庭裁判所が清算人を選び、選任と相続人を探すための公告を官報に出す(6か月以上の期間)
- 清算人が、債権者や受遺者に請求の申出をするよう公告する(2か月以上の期間)
- 清算人が財産を調べて管理し、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て不動産などを売る
- 申出のあった債権者や受遺者に支払う
- 相続人が現れなければ、特別縁故者は期間の満了から3か月以内に財産の分与を申し立てられる
- 残った財産を国庫に引き継ぐ
不動産を売るときなど、清算人が保存行為の範囲を超える行為をするには、家庭裁判所の許可が必要です。
特別縁故者への財産分与
相続人がいない場合、亡くなった方と特別の縁故があった人は、家庭裁判所に財産の分与を申し立てることができます(民法958条の2)。
| 特別縁故者にあたる人の例 |
|---|
| 亡くなった方と生計を同じくしていた人(内縁の配偶者など) |
| 亡くなった方の療養看護に努めた人 |
| その他、亡くなった方と特別の縁故があった人 |
申立ては、相続人を探すための公告の期間が満了してから3か月以内にしなければなりません。
分与するかどうか、どれだけ分与するかは、家庭裁判所が事情を考えて決めます。
内縁の配偶者の立場は内縁の妻は相続できる?で説明しています。
相続放棄した人の保存の義務
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになります。
たとえば、亡くなった親と同居していた子が相続放棄をした場合、その家を清算人などに引き渡すまで、保存の義務があります。
一方、放棄の時に財産を占有していなかった人には、この義務はありません。
保存の義務から早く解放されたい場合は、自ら利害関係人として清算人の選任を申し立てる方法もありますが、予納金の負担が問題になることがあります。
空き家が残った場合
相続人が全員放棄した空き家は、清算人が選ばれるまで管理する人がいない状態になりがちです。
2023年12月に施行された改正空家法では、市区町村長が、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に請求できることが定められています。
空き家の扱いは空き家バンクとはや相続した家の固定資産税でも説明しています。
相続人がいない人が生前にできる備えは死後事務委任契約とはで説明しています。
先順位の相続人が放棄したことを確かめる方法は相続放棄申述受理証明書の取り方で説明しています。
限定承認のときの「相続財産の清算人」との違いは限定承認とはで説明しています。
よくある質問
相続人全員が放棄したら、借金はどうなりますか?
相続財産清算人が選ばれれば、相続財産の範囲で債権者に支払います。
財産が足りない場合でも、放棄した人が代わりに払う必要はありません。
清算人が選ばれない場合、債権者は回収できないまま残ることがあります。
相続財産清算人の選任には、どのくらい時間がかかりますか?
申立てから選任までの期間は事案によって違います。
選任後も、相続人を探す公告に6か月以上かかるため、清算が終わるまでには少なくとも半年以上かかります。
遠い親戚でも相続人になりますか?
相続人になるのは、配偶者、子、父母などの直系尊属、兄弟姉妹(甥・姪までの代襲)までです。
いとこなどは相続人にならないので、特別縁故者として分与を申し立てる方法を検討します。
相続人の範囲は法定相続人の範囲と順位で確認できます。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
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参考資料:民法897条の2・940条・951条〜959条(2023年4月1日施行の改正後)/裁判所「相続財産清算人の選任」/空家等対策の推進に関する特別措置法(2026年10月1日確認)

