親から借地の上の家を相続したものの、住む予定がないという相談は少なくありません。
借地権は売ることができますが、土地が地主のものなので、ふつうの家とは売り方が違います。
特に、第三者に売るときは、原則として地主の承諾が必要です。
この記事では、民法・借地借家法と裁判所の案内をもとに、相続した借地権を売る方法を説明します。
地主が承諾しないときの裁判所の手続き(借地非訟)や、相続税での評価の考え方も説明します。
- 借地権を相続するときは地主の承諾は要らないが、第三者に売るときは原則として承諾が必要
- 承諾を得るときは、地主に「譲渡承諾料(名義変更料)」を払うのが一般的。金額を決めた法律はない
- 地主が承諾しないときは、売る前に裁判所に許可を申し立てられる(借地借家法19条)
- 地主に買ってもらう、底地と一緒に売る、借地権の買取業者に売る方法もある
- 売る前に、建物の相続登記をすませておく
相続放棄を考えている場合は、査定や売却の前に放棄するかどうかを決めてください(民法921条1号)。
借地権付きの建物は、借地権を専門に扱う買取業者に査定を頼む方法もあります(相談先の比較を見る)。
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借地権を売る前に確認すること
まず、借地の契約の内容を確かめます。
| 確認すること | どこで見るか |
|---|---|
| 借地権の種類(賃借権か地上権か) | 土地の賃貸借契約書、土地の登記 |
| 旧法の借地か、借地借家法の借地か | 契約を始めた日(1992年8月1日より前なら旧法) |
| 契約の残りの期間・更新の時期 | 契約書、更新のときの書類 |
| 地代の額と支払いの状況 | 通帳の記録、地代の領収書 |
| 建物の名義 | 建物の登記事項証明書 |
借地権の多くは、土地を借りる契約(賃借権)です。
地上権の場合は、地主の承諾がなくても売ることができます。
契約書が見つからないときは、地主に写しをもらえないか相談しましょう。
借地権の種類と相続の手続きは借地権の相続で説明しています。
まず建物の相続登記をする
借地権を売るときは、借地の上の建物も一緒に売ります。
買主に名義を移すには、先に相続人の名義に変えておく必要があります。
相続登記は、相続を知った日から3年以内にすることが義務になっています(不動産登記法76条の2)。
必要な書類は相続登記の必要書類で確認できます。
相続人が何人かいるときは、誰が借地権を受け継ぐか、遺産分割で決めておきます。
第三者に売るには地主の承諾が要る
土地を借りる権利(賃借権)は、貸主の承諾がなければ他人に譲れません(民法612条1項)。
承諾なしに譲ると、地主は契約を解除できるとされています(同条2項)。
とはいえ、承諾なしで売ると買主にとっても危険なので、実際には承諾を得てから売ります。
なお、相続で受け継ぐときは承諾は要りません。
承諾が必要になるのは、相続した人がさらに誰かに売るときです。
譲渡承諾料(名義変更料)
地主が承諾するときは、借地人が「譲渡承諾料」を払うのが一般的です。
「名義変更料」「名義書換料」と呼ばれることもあります。
地主と話し合って決めることになり、地域や契約によって差があります。
裁判所の手続きでは、鑑定委員会の意見を聴いて、裁判所が支払う額を決めます。
承諾をもらったら、後で争いにならないよう、承諾書を書面でもらっておきましょう。
買主の住宅ローンにも承諾が関わる
買主が住宅ローンを使う場合、金融機関から地主の承諾書を求められることがあります。
建物に抵当権をつけるとき、地主の承諾を条件にする金融機関があるためです。
売る話を進める前に、地主にどこまで協力してもらえるか確認しておくと安心です。
借地権を売る5つの方法

| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 地主に売る | 地主が土地を取り戻したいと考えている | 相手が1人なので、価格の比較がしにくい |
| 承諾を得て第三者に売る | 地主が承諾に前向き | 譲渡承諾料がかかる。買主が見つかるまで時間がかかる |
| 底地と一緒に売る | 地主も土地を手放したい | 地主と価格の分け方を決める必要がある |
| 借地権の買取業者に売る | 早く手放したい、建物が古い | 仲介で売るより価格は低くなりやすい |
| 裁判所の許可を得て売る | 地主が理由なく承諾しない | 時間と費用がかかる。代理人は弁護士に限られる |
地主に売る
地主にとっては、借地権を買い戻せば、土地を自由に使えるようになります。
承諾料の問題もないので、話がまとまれば一番手続きが少ない方法です。
価格が妥当かどうかは、ほかの不動産会社の査定と比べて判断しましょう。
底地と一緒に売る
地主が持つ土地の権利(底地)と、借地権を一緒に売る方法です。
買主は、ふつうの土地と建物として買えるので、買い手を見つけやすくなります。
売れた代金は、地主と借地人で話し合った割合で分けます。
借地権と底地の一部を交換し、それぞれが完全な土地を持つ方法(等価交換)もあります。
借地権の買取業者に売る
借地権付きの建物を専門に買い取る不動産会社もあります。
買主が業者になるので、承諾料の支払いや地主の承諾も含めて話を進めることになります。
古い建物や、再建築が難しい借地でも、査定を受けられることがあります。
そのぶん、仲介で一般の人に売るより価格は低くなるのが一般的です。
いくつかの会社の査定を比べてから決めましょう。
承諾を得て売るときの流れ
-
STEP 1契約と名義の確認契約書・地代の支払い・建物の登記を確かめ、相続登記をすませる
-
STEP 2査定借地権を扱う不動産会社に査定を頼み、売れそうな価格をつかむ
-
STEP 3地主への相談売りたいことを伝え、地主自身が買う気があるか、承諾の条件を聞く
-
STEP 4買主との契約地主の承諾を条件にして、売買契約を結ぶ
-
STEP 5承諾書と承諾料地主から承諾書をもらい、承諾料を払う。新しい借地契約を結び直すこともある
-
STEP 6決済と登記代金を受け取り、建物の名義を買主に移す
地主に相談する前に査定を取っておくと、地主に買い取りを打診するときの目安にもなります。
地主との間で条件がまとまらず、争いになりそうなときは、弁護士に相談してください。
地主が承諾しないとき(借地非訟)

地主が承諾してくれないときは、裁判所に「承諾に代わる許可」を求められます(借地借家法19条1項)。
この手続きを「借地非訟(土地の賃借権譲渡許可の申立て)」といいます。
裁判所が許可すれば、地主の承諾があったのと同じように売ることができます。
許可するときに、借地人に地主への支払い(承諾料)を命じることもあります。
申し立てるのは売る前
この申立ては、借地人が建物を売る前にする必要があります。
先に売ってしまうと、この手続きは使えません。
売る相手を決めてから、その相手に売ることの許可を求めるのが一般的です。
承諾も許可もないまま建物を買った人は、地主に建物を時価で買い取るよう請求できます(借地借家法14条)。
地主が自分で買うこともできる
申立てがあると、地主は「自分が建物と借地権を買う」と申し立てることができます(借地借家法19条3項)。
この場合、裁判所が相当な価格を決めて、地主に売ることになります。
これを「介入権」といいます。
手続きの流れ(東京地方裁判所の案内)
-
STEP 1申立て借地の所在地を管轄する地方裁判所に申立書を出す(借地借家法41条)
-
STEP 2審問おおむね1か月から1か月半後に第1回の審問。裁判官が双方から話を聴く
-
STEP 3鑑定委員会弁護士・不動産鑑定士などの委員が現地を調べ、意見書を出す(費用は国が負担)
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STEP 4決定意見書について双方の意見を聴いたあと、裁判所が決定する。途中で和解を勧められることもある
決定に不服があるときは、決定書を受け取ってから2週間以内に即時抗告ができます。
申立ての代理人は、弁護士に限られます(借地借家法44条1項)。
地主との交渉や申立てを人に頼む場合は、弁護士に相談してください。
申立ての費用
申立手数料は、借地の固定資産評価額をもとに計算し、収入印紙で納めます。
東京地裁の案内では、譲渡許可の申立ては「固定資産評価額÷2」を目的の価格として手数料を決めます。
申立てのときは、土地の固定資産評価証明書(原本)を持参します。
書類を送るための郵便切手は、東京地裁の場合、相手方1人で6,000円分です。
手数料の額は、裁判所の「手数料早見表」で確かめられます。
固定資産評価証明書の取り方は登記事項証明書と固定資産評価証明書の取り方で説明しています。
相続税での借地権の評価額

相続税では、借地権は「自用地の評価額×借地権割合」で評価するのが原則です。
借地権割合は、国税庁の路線価図で、路線価の数字の後ろの記号(A〜G)でわかります。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
例えば、路線価20万円、面積100㎡、記号Dなら、2,000万円×60%=1,200万円です。
この評価額は相続税を計算するためのもので、実際に売れる価格とは違います。
借地権は、地主の承諾が必要なぶん、ふつうの土地より買い手が限られます。
実際の価格は、不動産会社の査定で確かめましょう。
路線価の調べ方は路線価とはで説明しています。
借地権を売ったときの税金
借地権を売って利益が出た場合は、譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。
相続した借地権は、亡くなった人が取得したときの費用を引き継いで計算します。
払った譲渡承諾料や仲介手数料が、売るための費用になるかどうかも含めて、個別の判断が必要です。
個別の税額の計算や申告は、税理士または税務署に確認してください。
税金の基本は相続した不動産を売ったときの税金にまとめています。
売らずに手放すほかの方法
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 地主に返す | 契約を終わらせ、土地を返す | 建物の取り壊しを求められることがある |
| 契約満了で建物を買い取ってもらう | 更新されないとき、地主に建物を時価で買い取るよう請求できる(借地借家法13条) | 地代の滞納で解除された場合や、合意で解約した場合は使えない |
| 相続放棄 | 借地権を含めて、相続をすべて放棄する | 3か月以内。預金などほかの財産も受け取れない |
相続土地国庫帰属制度は、自分が持つ土地を国に引き渡す制度なので、借地権には使えません。
相続放棄の期限と注意点は相続放棄とはで確認できます。
借地権の売却で起きやすいトラブル
- 地主に相談せずに買主を探し、あとで承諾を断られた
- 承諾料の額で折り合わず、話が止まった
- 地代の滞納があり、地主との関係がこじれていた
- 建物の名義が亡くなった人のままで、すぐに売れなかった
- 建て替えができるかどうかを確認しないまま売りに出した
建て替えには、別に地主の承諾(建替え承諾)が必要になることが多いです。
地主とは、相続したことの通知の段階から、ていねいにやりとりしておくことが大切です。
査定はいくつかの会社に頼む
借地権は、扱いに慣れた不動産会社とそうでない会社で、査定額に差が出やすい財産です。
借地権を専門に扱う会社の査定と、地元の不動産会社の査定を比べると判断しやすくなります。
次の窓口では、借地権付きの建物などの無料査定を申し込めます。
相続放棄を考えている場合は、査定や売却の話を進める前に、放棄するかどうかを決めてください(民法921条1号)。
相続した不動産の買取の相談先(比較)
訳あり物件を専門に扱う買取業者の例です。ふつうの不動産会社の査定と比べる先の1つとして使えます。
| 相談先 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
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複数の会社に査定を頼んで比べましょう。査定額は会社によって差が出ます。対応エリアは各社の公式サイトで確認してください。
よくある質問
地主に売却のことを伝えずに買主を探してもいいですか?
探すこと自体は禁じられていませんが、承諾がなければ売れません。
あとで断られると、買主との話がむだになるので、先に地主に相談するのが安全です。
譲渡承諾料は必ず払わなければいけませんか?
法律で決まった支払い義務ではありません。
ただ、承諾をもらうために払うのが一般的で、裁判所の許可でも支払いを命じられることがあります。
借地権を兄弟で共有のまま売れますか?
共有の借地権を売るには、共有者全員が売主になる必要があります。
一人だけで全体を売ることはできないので、遺産分割で誰が受け継ぐか決めておくと進めやすくなります。
地代を滞納したままでも売れますか?
滞納があると、地主が承諾しにくくなり、契約を解除されるおそれもあります。
売る前に、滞納分を清算しておきましょう。
借地非訟の申立ては自分でもできますか?
申立人本人が申し立てることはできます。
代理人を頼む場合は、弁護士に限られます(借地借家法44条1項)。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:東京地方裁判所民事第22部「借地非訟事件について」(第2 手続の流れ・第3 費用)/民法612条・921条/借地借家法13条・14条・19条・41条・44条/不動産登記法76条の2/国税庁「財産評価基本通達」(借地権の評価・路線価図)(2026年10月2日確認)

