相続した実家を売ろうとしたら、権利証が見つからない。
遺品を整理しても、親の権利証がどこにもない。
こうした場面で「家を売れないのでは」「誰かに悪用されるのでは」と不安になる人は少なくありません。
結論から言うと、権利証や登記識別情報をなくしても、不動産の権利はなくなりません。
再発行はできませんが、別の方法で本人確認をすれば、売ることも名義を変えることもできます。
この記事では、法務局の案内と不動産登記法をもとに、相続と売却の場面ごとに説明します。
売るときに必要な書類のチェックリスト(Word・無料)もつけています。
- 権利証・登記識別情報は再発行できない。ただし、なくしても権利には影響しない
- 亡くなった人の権利証は、相続登記には原則として使わない。なくても相続登記はできる
- 売るときは、事前通知・司法書士などの本人確認情報・公証人の認証のどれかで本人確認をする(不動産登記法23条)
- 悪用が心配なら、実印と印鑑証明書を管理し、差し迫った危険があれば不正登記防止申出をする
- 相続登記をすると、申請した相続人に新しい登記識別情報が通知される
権利証と登記識別情報の違い

「権利証」は、法令では「登記済証」といいます。
登記が終わったときに、登記所が名義人に渡していた書面です。
平成16年の不動産登記法の改正で、権利証に代わって「登記識別情報」の制度が始まりました。
| 権利証(登記済証) | 登記識別情報 | |
|---|---|---|
| 形 | 「登記済」の印が押された書面 | 12桁の英数字。通知書に書かれている |
| 使い方 | 書面そのものを登記所に出す | 英数字を登記所に伝える |
| 単位 | 登記の申請ごと | 不動産ごと・名義人ごと |
| 再発行 | できない | できない |
古い権利証も、今でもそのまま使えます。
登記識別情報は、通知書の目隠しシールや折り込みの下に書かれています。
番号を見られると書面を盗まれたのと同じことになるので、使うときまで開けずに保管しましょう。
どんなときに使うのか
| 手続き | 権利証・登記識別情報 |
|---|---|
| 家や土地を売る・贈与する | 必要(売る人・贈与する人のもの) |
| 家を担保にお金を借りる(抵当権の設定) | 必要 |
| 相続登記(亡くなった人から相続人へ) | 原則として不要 |
| 住所や氏名の変更の登記 | 不要 |
| 建物を取り壊したときの登記(滅失登記) | 不要 |
権利証は、名義人が「自分の意思で権利を手放す・負担をつける」登記をするときに、本人確認の資料として使います。
なくしても権利はなくならない
法務局は、権利証を紛失しただけでは、登記記録上の権利には何の影響もないと案内しています。
権利証は権利そのものではなく、登記のときに本人であることを確かめる資料の1つだからです。
なくしたあとに登記をするときは、後で説明する別の方法で本人確認をします。
亡くなった親の権利証が見つからないとき
相続登記には原則として使わない
相続登記は、戸籍などで相続があったことを証明して申請します。
亡くなった人の権利証や登記識別情報は、原則として出す必要がありません。
そのため、親の権利証が見つからなくても、相続登記はできます。
必要な書類は相続登記の必要書類で確認できます。
それでも探しておきたい理由
権利証には、亡くなった人が持っていた不動産の所在や地番が書かれています。
家の前の私道の持分など、見落としやすい不動産を見つける手がかりになります。
権利証と一緒に、買ったときの売買契約書や領収書が保管されていることもあります。
これらは、売ったときの税金の計算で取得費の資料になるので、捨てずに残しておきましょう。
権利証がよく見つかる場所
- 金庫、仏壇の引き出し、たんすの奥
- 銀行の貸金庫
- 司法書士事務所の名前が入った厚い表紙のファイルや封筒(「登記済権利証」「登記識別情報通知」と書かれている)
- 住宅ローンの書類や、家を建てたときの書類と同じ箱
遺品を整理するときは、書類の束を中身を見ずに捨てないよう注意しましょう。
捨ててはいけない物は遺品整理はいつから?で一覧にしています。
不動産が分からないときの調べ方
権利証がなくても、市区町村の名寄帳や、法務局の所有不動産記録証明書で不動産を調べられます。
調べ方は相続財産の調べ方で説明しています。
相続登記をすると新しい登記識別情報が通知される
相続登記が終わると、新しく名義人になった相続人に、登記識別情報が通知されます。
相続した家を売るときに使うのは、この新しい登記識別情報です。
注意したいのは、通知されるのは「申請人になった人」だけという点です。
| ケース | 登記識別情報 |
|---|---|
| 遺産分割で家を相続した人が自分で申請した | その人に通知される |
| 共有で相続し、全員が申請人になった | 全員に、それぞれ通知される |
| 法定相続分の共有で、相続人の1人だけが申請した | 申請した人にだけ通知される。ほかの相続人には通知されない |
| 申請のときに「通知を希望しない」とした | 通知されない |
通知されなかった人が後でその家を売るときは、権利証をなくした場合と同じ方法で本人確認をすることになります。
共有で登記するときは、全員が申請人になっておくと、あとの手続きが楽になります。
なくしたときに売る3つの方法

権利証や登記識別情報を出せないときは、理由(紛失など)を申請書に書きます。
そのうえで、次のどれかの方法で本人確認をします(不動産登記法23条)。
| 方法 | 内容 | 費用 |
|---|---|---|
| 事前通知 | 登記所が名義人の住所に本人限定受取郵便で通知を送る。2週間以内に「間違いない」と申し出る | 手数料はかからない |
| 資格者代理人の本人確認情報 | 登記を頼んだ司法書士などが、面談して本人であることを確認した書類を作る | 手数料がかかることがある |
| 公証人の認証 | 公証人が本人であることを確認して、書類に認証をする | 公証人の手数料がかかる |
事前通知
登記の申請があったあと、登記所から名義人あてに通知が届きます。
通知には、登記の申請があったことと、内容が正しければ2週間以内に申し出るよう書かれています。
期間内に申出があってはじめて、本人からの申請と確認されます。
手数料はかかりませんが、申請してから登記が終わるまでに時間がかかります。
所有権の登記で、申請の前に登記簿の住所を変えている場合は、変更前の住所にも通知が送られます。
住所を移したことを利用したなりすましを防ぐためです。
司法書士などの本人確認情報
登記を司法書士などに頼む場合は、その資格者が本人と面談し、本人確認の書類を作る方法があります。
登記官が内容を適正と認めれば、事前通知は省略されます。
売買では、代金の支払いと同時に登記を申請するのが一般的です。
事前通知だと登記が終わる日がはっきりしないため、売買ではこの方法がよく使われます。
手数料は司法書士によって違うので、事前に確認しましょう。
公証人の認証
公証役場で、公証人に本人であることを確認してもらう方法です。
登記の委任状などに認証を受けます。
費用や持ち物は、事前に公証役場に確認してください。
どの方法でも必要なもの
- 実印と印鑑証明書
- 運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類
- 登記の住所と今の住所が違う場合は、先に住所変更の登記
売ることが決まったら、早めに不動産会社と司法書士に「権利証がない」と伝えておきましょう。
決済の日までに準備が必要になるためです。
ケース別:こんなときはどうする
| ケース | 対応 |
|---|---|
| 親が亡くなり、親の権利証がない | 相続登記はそのままできる。登記のあと、新しい登記識別情報を使って売る |
| 相続登記はしたが、自分の登記識別情報をなくした | 売るときに、事前通知・本人確認情報・公証人の認証のどれかを使う |
| 共有者の1人だけ登記識別情報がない | その人の分だけ、別の方法で本人確認をする |
| 親が元気なうちに、親の家を売る・贈与する | 親本人の本人確認が必要。親が手続きできるうちに進める |
| 名義人が海外に住んでいる | 事前通知の申出の期間は4週間。日数に余裕をもつ |
| 住宅ローンを払い終えた(抵当権を消す) | 金融機関から受け取る書類で手続きする。自分の権利証は使わない |
親が認知症で、権利証の場所が分からないとき
権利証がないこと自体は、ここまで説明した方法で対応できます。
問題になるのは、親に判断能力がないと、売る契約そのものができないことです。
この場合は、家庭裁判所で成年後見人を選んでもらう必要があります。
手続きは認知症の親の家を売るには?で説明しています。
司法書士の本人確認ではどんなことをするか
司法書士は、名義人本人と会って、本人であることを確かめます。
- 運転免許証やマイナンバーカードなど、顔写真つきの本人確認書類を見せる
- 生年月日や住所、その不動産を手に入れたいきさつなどを聞かれる
- 権利証を出せない理由(なくした時期や事情)を伝える
面談は、売買の決済の日より前に行うのが一般的です。
名義人が入院している、遠方に住んでいるという場合は、早めに日程を相談しましょう。
例:父名義の実家を、長男が相続して売る場合
父の権利証は見つからなかったが、戸籍と遺産分割協議書で相続登記をした。
登記のあと、長男あての登記識別情報通知書が届いた。
売るときは、この通知書と、長男の実印・印鑑証明書を使って買主に名義を移す。
この例では、父の権利証がなくても、追加の本人確認の手続きは必要ありません。
悪用が心配なとき

法務局は、権利証だけで勝手に登記されることはないと説明しています。
所有権の移転などの登記には、権利証のほかに印鑑証明書などが必要だからです。
実印と印鑑証明書をしっかり管理していれば、勝手に登記されることはないとされています。
他人になりすまして登記をしても、その登記は無効で、行為は犯罪になります。
不正登記防止申出
それでも、不正な登記をされる差し迫った危険があるときは、登記所に「不正登記防止申出」ができます。
申出から3か月以内に不正な登記がされることを防ぐための制度です。
権利の移動そのものを禁止する制度ではありません。
不安が続く場合は、3か月ごとに申出をし直すことになります。
手続きは本人が登記所に出向くのが原則です。
登記識別情報の失効の申出
登記識別情報の通知書を盗まれた、番号を見られたという場合は、その登記識別情報を失効させる申出ができます。
失効させると、その番号は以後の登記に使えなくなります。
新しい番号は発行されないので、次に登記するときは事前通知などの方法を使います。
名義が変わっていないか確かめる
心配なときは、法務局で登記事項証明書を取り、名義が変わっていないかを確かめましょう。
取り方は登記事項証明書と固定資産評価証明書の取り方で説明しています。
権利証についてのよくある誤解
| よくある誤解 | 実際は |
|---|---|
| 権利証をなくすと、家の権利がなくなる | 権利は登記記録で決まる。紙をなくしても権利は変わらない |
| 権利証を持っている人が所有者になる | 持っているだけでは所有者にならない。登記には実印や印鑑証明書も必要 |
| 法務局に行けば再発行してもらえる | 再発行の制度はない。別の方法で本人確認をする |
| 親の権利証がないと相続登記ができない | 相続登記には原則として使わない |
| 相続登記をすれば、相続人全員に登記識別情報が届く | 届くのは申請人になった人だけ |
| 権利証がないと家を売りに出せない | 査定や売り出しはできる。名義を移す登記のときに本人確認の手続きをする |
権利証は大切な書類ですが、なくしたからといって慌てて何かを買ったり契約したりする必要はありません。
「権利証を再発行する」などと持ちかける勧誘があっても、応じないようにしましょう。
登記識別情報通知書の見方
- A4の紙で、「登記識別情報通知」という題がついている
- 不動産の所在・地番(家屋番号)、受付の年月日と番号、名義人の氏名が書かれている
- 下の部分が目隠しシールや折り込みになっていて、その中に12桁の英数字がある
- 土地と建物は別の不動産なので、それぞれに通知書がある
土地が何筆かに分かれている場合は、筆ごとに通知書があります。
私道の持分の分が抜けていないかも、売る前に確かめておきましょう。
相続した家を売るまでの流れ
-
STEP 1不動産を確かめる権利証、固定資産税の通知、名寄帳などで所在と地番を確認する
-
STEP 2遺産分割誰が相続するかを決め、遺産分割協議書を作る
-
STEP 3相続登記相続人の名義に変える。新しい登記識別情報が通知される
-
STEP 4査定・媒介契約不動産会社に査定を頼み、売却を依頼する
-
STEP 5売買契約・決済登記識別情報、実印、印鑑証明書を用意して名義を買主に移す
相続登記は、相続を知った日から3年以内にすることが義務になっています(不動産登記法76条の2)。
不動産会社との契約の種類は媒介契約の3種類の違いと選び方で説明しています。
売るか残すかの考え方は相続した実家は売る?残す?にまとめています。
売るときの書類チェックリスト(Word・無料)
相続した家を売るときにそろえる書類を、19項目のチェックリストにしました。
権利証のほかにも、境界や建築の書類など、早めに探しておきたいものがあります。
無料ダウンロード
権利証の保管で気をつけること
- 権利証と、実印・印鑑証明書(マイナンバーカード)は別の場所に保管する
- 登記識別情報の目隠しシールは、使うときまではがさない
- 保管場所は、信頼できる家族に伝えておく
- 相続登記のあとに届いた登記識別情報通知書は、古い権利証と一緒にまとめておく
保管場所を家族に伝える方法はエンディングノートの書き方で紹介しています。
売却の査定を頼む
権利証がなくても、査定を頼むことや、売り出すことはできます。
本人確認の手続きが必要になるのは、買主に名義を移す登記のときです。
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相続放棄を考えている場合は、査定や売却の話を進める前に、放棄するかどうかを決めてください(民法921条1号)。
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住める状態の家は仲介の査定、傷みが大きい家や権利関係が複雑な家は買取の査定も取り、両方の金額を比べてから売り方を決めましょう。
抵当権を消すときの書類については、親が亡くなったら住宅ローンはどうなる?(団信・抵当権の抹消・根抵当権)で説明しています。
すぐに相続登記ができない事情があるときは、相続人申告登記のやり方(必要書類・申出書の書き方)で説明しています。
よくある質問
権利証を再発行してもらえますか?
できません。
権利証も登記識別情報も、なくした場合の再発行や再通知はされません。
権利証がないと相続登記はできませんか?
できます。
相続登記では、亡くなった人の権利証は原則として使いません。
事前通知の郵便を受け取れなかったらどうなりますか?
2週間以内に申出をしないと、本人からの申請と確認されず、登記はされません。
申請のあとは、郵便を確実に受け取れるようにしておきましょう。
亡くなった親の権利証は、相続登記のあと捨ててもいいですか?
登記に使うことはなくなりますが、不動産の経緯を示す資料として残しておくと安心です。
一緒に保管されている売買契約書などは、売るときの税金の資料になります。
権利証を拾った人が、家を売ってしまうことはありますか?
登記には実印と印鑑証明書なども必要なので、権利証だけで登記することはできません。
具体的な不安がある場合は、登記所に不正登記防止申出の相談をしてください。
自分で登記を申請する場合はどの方法になりますか?
自分で申請する場合は、事前通知か、公証人の認証を使うことになります。
司法書士などの本人確認情報は、登記をその資格者に頼んだ場合の方法です。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:法務局「登記済証(権利証)を紛失したのですが、どうしたらよいのですか?」(情報番号1310)・「登記識別情報を提供することができない場合はどうしたらよいのですか?」(情報番号1329)/不動産登記法21条・22条・23条・76条の2、不動産登記規則65条・70条/民法921条(2026年10月4日確認)

