親が持っていた田や畑を相続したけれど、自分は農業をしない。
売りたい、貸したい、家を建てたいと思っても、農地は普通の土地と同じようには扱えません。
農地は農地法で売買や転用が制限されていて、相続したときには農業委員会への届出も必要です。
この記事では、相続した農地の手続きと、使い方・手放し方を整理します。
根拠は、農地法と農林水産省「農地相続ポータル」の案内です。
農業委員会に出す届出書の記入例は、Wordで用意しています。
- 相続で農地を取得したら、農業委員会に届出をする(農地法3条の3)。農林水産省は相続発生日からおおむね10か月以内と案内している
- 届け出なかった場合や、うその届出をした場合は、10万円以下の過料の対象(農地法69条)
- 届出とは別に、相続登記も必要(相続を知った日から3年以内)
- 相続や遺産分割で取得するときは、農業委員会の許可は不要(農地法3条1項12号)。ただし、売る・貸すときは原則として許可が必要
- 家を建てる・駐車場にするなどの転用は、原則として都道府県知事等の許可が必要。市街化区域なら届出で足りる
農地を相続したらまずすること

農地を相続したときは、ほかの土地と違って、手続きが2つあります。
| 手続き | 出す先 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 農地法の届出 | 農地がある市町村の農業委員会 | 相続発生日からおおむね10か月以内(農林水産省の案内) | 農地法3条の3 |
| 相続登記 | 農地がある地域の法務局 | 相続で取得したことを知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2 |
農林水産省は、農地の相続について「届出、登記がそれぞれ法律により義務付けられています」と案内しています。
相続登記をしても、農業委員会への届出をしたことにはなりません。
相続登記の必要書類は相続登記の必要書類と自分でやる手順で説明しています。
農業委員会への届出(農地法3条の3)
相続などで農地の権利を取得した人は、遅滞なく、農地がある市町村の農業委員会に届け出なければなりません(農地法3条の3)。
条文には日数が書かれていません。
農林水産省のチラシでは「相続発生日からおおむね10か月以内に届出が必要」とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届け出る人 | 相続などで農地の権利を取得した人 |
| 対象 | 相続、遺産分割、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈など(様式例の記載要領) |
| 届出先 | 農地がある市町村の農業委員会 |
| 届け出なかったとき | 10万円以下の過料(農地法69条) |
届出書に書くこと
農林水産省の「様式例第3号の1」では、次の項目を書きます。
-
STEP 1権利を取得した人の氏名・住所所有権を取得した場合は国籍等も書く
-
STEP 2土地の所在・地番・地目・面積地目は登記簿と現況の両方を書く
-
STEP 3権利を取得した日相続なら、通常は亡くなった日
-
STEP 4権利を取得した事由相続、遺産分割など
-
STEP 5取得した権利の種類と内容所有権なら、今の耕作の状況や、貸す見込みなど
-
STEP 6農業委員会によるあっせん等の希望売りたい・貸したい場合は「希望する」と書ける
登記簿の名義人と今の所有者が違うときは、備考欄に登記簿上の所有者を書きます。
添付書類は、相続したことが分かる書類(登記事項証明書、遺産分割協議書の写しなど)を求める農業委員会が多いです。
様式や添付書類は農業委員会ごとに違うので、届け出る先の案内を確認してください。
届出の流れ
-
STEP 1相続した農地を調べる固定資産税の課税明細書や名寄帳で、所在・地番・地目・面積を確認する
-
STEP 2誰が取得するか決める遺言がなければ遺産分割で決める。決まるまでは相続人の共有になる
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STEP 3届出書を書く農業委員会の様式(または農林水産省の様式例)に記入する
-
STEP 4添付書類をそろえる登記事項証明書、遺産分割協議書の写しなど(農業委員会の案内による)
-
STEP 5農業委員会に出す窓口のほか、郵送を受け付ける農業委員会もある
遺産分割がまとまる前でも、相続によって共有で取得した段階で届け出ることができます。
その場合は、遺産分割で取得者が決まったあとの扱いを、農業委員会に確認しておきましょう。
あっせんの希望を書ける
届出書には、農業委員会による売却や貸し付けのあっせんを希望するかを書く欄があります。
農林水産省のチラシでも、地元を離れていて管理ができない場合は、農業委員会が管理の相談や借り手探しを手伝うとされています。
自分で農業をしない人は、この欄で「希望する」と書いておくのも一つの方法です。
相続した農地の5つの選択肢

| 選択肢 | 必要な手続き | 向いている人 |
|---|---|---|
| 自分で農業をする | 特に手続きは不要(届出と登記は必要) | 農業を続ける人、家庭菜園程度でも耕作できる人 |
| 貸す | 農業委員会の許可(農地法3条)、または農地バンクへの貸し付け | 手放したくないが耕作できない人 |
| 農地のまま売る | 農業委員会の許可(農地法3条) | 近くに買いたい農家がいる人 |
| 転用して使う・売る | 都道府県知事等の許可(4条・5条)。市街化区域は届出 | 市街地に近い農地を持つ人 |
| 国に引き取ってもらう | 相続土地国庫帰属制度の申請 | 使い道も買い手もない人 |
農地を貸す・売る(農地法3条)
農地を売ったり貸したりするには、原則として、農地がある市町村の農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。
農林水産省の資料では、この許可を受けていない売買などは無効とされています。
買う人・借りる人は、原則として農業をする人や法人に限られるので、買い手が見つかりにくいのが実情です。
許可を受けられないおもな場合
農地法3条2項は、許可をしてはならない場合を定めています。
| おもな不許可の場合 | 内容 |
|---|---|
| 全部効率利用でない | 取得後に、持っている農地のすべてを効率的に使って耕作すると認められない(1号) |
| 法人の要件 | 農地所有適格法人以外の法人が所有権を取得しようとする(2号) |
| 常時従事でない | 個人が取得後、必要な農作業に常時従事すると認められない(4号) |
| 周辺への支障 | 周辺の農地の効率的な利用に支障が生じるおそれがある(6号) |
つまり、農地のまま売れる相手は、実際に農業をする人や法人に限られます。
以前あった「下限面積」の要件は、2023年4月の法改正でなくなりました。
農地バンク(農地中間管理機構)に貸す
自分で借り手を探す代わりに、都道府県ごとにある農地中間管理機構(農地バンク)に貸し付ける方法があります。
農林水産省も、相続した農地の活用方法として案内しています。
将来の手放し方も考えて選びましょう。
相続や遺産分割で取得するときは許可がいらない
相続人が相続や遺産分割で農地を取得するときは、農業委員会の許可は不要です(農地法3条1項12号)。
そのため、農業をしない相続人でも、農地を相続すること自体はできます。
許可がいらない代わりに、3条の3の届出が必要になる、という関係です。
農地を転用する(農地法4条・5条)

農地に家を建てる、駐車場にする、資材置き場にするなど、耕作以外に使うことを「転用」といいます。
自分の農地でも、原則として都道府県知事等の許可が必要です(農地法4条)。
転用するために売る・貸すときは、5条の許可が必要です。
| 農地の区分 | 転用の方針(農林水産省の資料) |
|---|---|
| 農用地区域内農地(いわゆる青地) | 原則不許可 |
| 甲種農地・第1種農地 | 原則不許可(例外あり) |
| 第2種農地 | ほかの土地で代えられない場合などに許可 |
| 第3種農地(市街地の農地) | 原則許可 |
| 市街化区域内の農地 | 農業委員会への届出で転用できる |
自分の農地がどの区分にあたるかは、農業委員会で確認できます。
転用の許可申請の書類作成は、行政書士の業務です。
市街化調整区域の土地の扱いは相続した市街化調整区域の家・土地で説明しています。
遺産分割で農地を誰が取得するか
農地は、売りにくく、使い道も限られるため、遺産分割で「誰が取得するか」がもめやすい財産です。
- 農業を続ける人がいる:その人が農地をまとめて取得し、ほかの相続人には預金などを多めに分ける
- 誰も農業をしない:取得する人を1人に決め、農地バンクや農業委員会のあっせんで貸す・売る
- 市街地に近い農地:転用できるかを先に農業委員会で確認し、評価の目安にする
- 代償分割:農地を取得した人が、ほかの相続人にお金(代償金)を払って調整する
農地を共有のままにすると、次の相続で持ち主がさらに増え、売る・貸すときに全員の同意を集めるのが難しくなります。
遺産分割協議書の書き方は遺産分割協議書の書き方とひな形で説明しています。
登記簿の地目と現況が違うとき
農地法の「農地」は、耕作の目的に使われている土地をいいます(農地法2条1項)。
登記簿の地目ではなく、現在の状況で判断されるのが原則です。
- 登記簿は「宅地」でも、実際に畑として使っていれば農地にあたることがある
- 登記簿は「田」「畑」でも、長年耕作されていない土地は、農業委員会の判断で農地でないと扱われることがある
どちらにあたるかは自分で決められないので、届出や売却の前に農業委員会に確認してください。
どうしても手放したいとき
相続土地国庫帰属制度
相続した土地を、一定の要件のもとで国に引き取ってもらえる制度です。
農林水産省の案内では、農地の負担金は、田・畑は面積にかかわらず原則20万円とされています。
農林水産省の例では、500㎡で約72万円、1,000㎡で約110万円です。
申請時には、一筆14,000円の審査手数料もかかります。
次のような土地は申請できない、または承認されない例として挙げられています。
- 建物や、管理の妨げになる耕作物がある土地
- 土壌汚染や埋設物がある土地
- 担保権が設定されている土地、権利関係に争いがある土地
- 農地バンクの中間管理権が設定されている土地
- 土地改良の賦課金が課されている土地
制度の詳細は相続土地国庫帰属制度とはで説明しています。
相続放棄は慎重に
農地だけを放棄することはできません。
相続放棄をすると、預金や家など、ほかの財産もすべて受け継げなくなります。
放棄するかは、財産全体を見て判断してください(相続放棄とは)。
農地と一緒に家や宅地を相続したとき
農家の相続では、農地と一緒に、母屋や宅地、市街化区域の土地を相続することもよくあります。
家や宅地は農地法の制限を受けないので、普通の不動産として売却を検討できます。
農地の扱いと合わせて、家や宅地がいくらで売れるかを確かめておくと、遺産の分け方を話し合いやすくなります。
なお、相続放棄を考えている相続人がいる場合は注意が必要です。
査定や売却を進める前に、放棄するかどうかを決めてください(民法921条1号)。
相続した不動産の売却・買取の相談先(比較)
実家の状態によっては、仲介より買取のほうが早く手放せることがあります。
| 相談先 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
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|
住める状態の家・マンション・土地を仲介で売る | 複数の不動産会社の訪問査定を一度に申し込める |
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家・マンション・土地を仲介で売る | 対応エリアは公式サイトで確認 |
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家・マンション・土地を売る(仲介のほか、買取・買取保証付き仲介も選べる) | 対応エリアは公式サイトで確認 |
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住める状態の家は仲介の査定、傷みが大きい家や権利関係が複雑な家は買取の査定も取り、両方の金額を比べてから売り方を決めましょう。
農地の買取に対応しているかは会社ごとに違うので、相談の際に確認してください。
農地の相続と税金
農林水産省は、相続税の納税の一部が猶予される特例があると案内しています。
相続した農地で自ら農業をする場合や、農地バンクに貸し付ける場合が対象です。
適用の条件は、三大都市圏の特定市かどうか、市街化区域かどうかなどで変わります。
特例を使えるか、相続税の申告が必要かは、税理士または税務署に確認してください。
相続税がかかるかの目安は相続税はいくらからかかる?で説明しています。
農業委員会への届出書 記入例(Word・無料)
農林水産省の様式例第3号の1に沿って、相続で農地を取得したときの届出書の記入例をWordで用意しました。
無料ダウンロード
農業委員会に独自の様式がある場合は、そちらを使ってください。
よくある質問
農地を相続したら、農業をしないといけませんか?
農業をする義務はありません。
耕作できない場合は、貸す・売るなどを農業委員会に相談しましょう。
届出の期限を過ぎてしまいました
過ぎていても、気づいた時点ですぐに届け出てください。
届け出なかった場合は10万円以下の過料の対象になります(農地法69条)。
登記簿は「田」なのに、実際は宅地として使っています
登記簿の地目と現況が違う場合は、届出書に両方を書きます。
過去に必要な転用の手続きがされていない可能性もあるので、農業委員会に相談してください。
相続人が複数いて、農地を共有で相続しました
共有で取得した場合も届出が必要です。
様式例の記載要領では、届出者以外の共有者がいるときは、その人数を書くとされています。
共有のままだと、売る・貸すときに全員の同意が必要になります。
遺産分割で誰が取得するかを決めておくと、後の手続きが楽になります。
家庭菜園程度の小さな畑でも届出が必要ですか?
登記簿や現況が農地であれば、面積にかかわらず農地法の対象になります。
届出が必要かは、農業委員会で確認してください。
行政書士に頼めますか?
農業委員会への届出書や、農地転用の許可申請書の作成は、行政書士が手伝えます。
相続登記は司法書士、相続税は税理士、相続人の間で争いがある場合は弁護士が担当です。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:農地法2条・3条・3条の3・4条・5条・69条/農林水産省「農地相続ポータル」・「農地を相続したときは、届出が必要です!」(チラシ)・「農地法第3条の3の規定による届出書(様式例第3号の1)」・「農地転用許可制度の概要」・「農地の権利を取得するための手続き」/不動産登記法76条の2/民法921条。手続きの細部は市町村の農業委員会ごとに異なります。届出や申請の前に、農地がある市町村の農業委員会に確認してください。

