長年一緒に暮らしてきたパートナーが亡くなった。
でも婚姻届は出していなかった。
こうした内縁(事実婚)の配偶者は、法律上の相続人になれません。
一方で、遺族年金や借家の住まいなど、内縁の配偶者でも守られる場面もあります。
この記事では、民法と判例、日本年金機構の案内をもとに、内縁の配偶者が受け取れるもの・受け取れないもの、財産を残すための方法を、わかりやすく説明します。
- 内縁の配偶者は、何年一緒に暮らしても法定相続人にならない
- 財産を残すには、遺言書(遺贈)、生前贈与、生命保険の受取人指定などの準備が必要
- 相続人がいない場合は、家庭裁判所に特別縁故者として財産分与を申し立てられる
- 遺族年金・未支給年金は、内縁(事実婚)の配偶者も受け取れる場合がある
内縁の配偶者は相続人にならない

民法で相続人になる「配偶者」は、婚姻届を出した法律上の配偶者だけです。
内縁の配偶者は、同居の期間が長くても、周りから夫婦と認められていても、法定相続人にはなりません。
そのため、遺言書などがなければ、亡くなった方の財産は、子・親・兄弟姉妹などの法定相続人が受け継ぎます。
内縁関係でも認められるもの・認められないもの
| 項目 | 内縁の配偶者 |
|---|---|
| 相続権 | ない |
| 遺留分 | ない |
| 配偶者居住権 | ない(法律上の配偶者だけ) |
| 相続税の配偶者の税額軽減 | 使えない |
| 遺言による遺贈 | 受け取れる |
| 特別縁故者への財産分与 | 相続人がいない場合に申し立てられる |
| 遺族年金・未支給年金 | 要件を満たせば受け取れる |
| 借家に住み続けること | 一定の場合に認められる |
死亡による財産分与は認められない
内縁関係が生きている間に解消された場合は、離婚と同じように財産分与を求められると考えられています。
しかし、最高裁判所の決定(平成12年3月10日)は、これを認めていません。
決定は、内縁の一方が亡くなって関係が終わった場合には、財産分与の規定を類推して適用することはできない、と判断しています。
つまり、亡くなった方の財産について、内縁の配偶者が「財産分与」として分けてもらう方法はありません。
内縁の配偶者に財産を残す方法

内縁の配偶者に財産を残すには、生前の準備が欠かせません。
| 方法 | ポイント |
|---|---|
| 遺言書で遺贈する | 最も基本的な方法。相続人の遺留分に注意する |
| 死因贈与契約を結ぶ | 「亡くなったら贈与する」と2人で約束する契約。書面にしておく |
| 生前贈与をする | 年110万円を超えると贈与税がかかる |
| 生命保険の受取人にする | 保険会社によっては、内縁の配偶者を受取人に指定できる(条件がある) |
| 家族信託を使う | 自宅などを信託し、亡くなったあとの受益者を内縁の配偶者にしておく |
遺言書を書くときのポイント
- 「遺贈する」と書く:相続人ではない人に渡すときは「相続させる」ではなく「遺贈する」と書く
- 財産を特定する:自宅の土地・建物は登記事項証明書のとおりに、預金は銀行名・支店・口座番号まで書く
- 遺言執行者を決めておく:内縁の配偶者を遺言執行者にしておくと、手続きを進めやすい
- 公正証書遺言か法務局の保管制度を使う:相続人に遺言の有効性を争われにくい
遺言書の文例は自筆証書遺言の書き方と文例、公正証書遺言は公正証書遺言の必要書類と費用で解説しています。
よく使う遺言の文例を集めた下書き用の文例集(Word・無料)も用意しています。清書は必ず手書きしてください。
遺留分に注意する
亡くなった方に子や親がいる場合、その人たちには遺留分があります。
「全財産を内縁の妻に遺贈する」という遺言でも有効ですが、子や親から遺留分侵害額を請求されることがあります。
兄弟姉妹には遺留分がないので、相続人が兄弟姉妹だけなら、遺言で全財産を内縁の配偶者に遺贈しても、遺留分の請求は受けません。
遺留分の計算は遺留分とはで解説しています。
死因贈与契約とは
死因贈与契約は、「私が亡くなったら、この財産をあなたに贈与する」という、贈与する人と受け取る人の間の契約です。
遺言書は1人で書けますが、死因贈与は2人の合意で成立する点が違います。
- 口約束でも成立するが、相続人と争いにならないよう、書面(できれば公正証書)にしておく
- 不動産の場合は、生前に「始期付所有権移転仮登記」をしておける
- 相続税の扱いは遺贈と同じ(贈与税ではなく相続税がかかる)
相続人がいない場合の「特別縁故者」

亡くなった方に相続人が1人もいない場合(相続人全員が相続放棄した場合を含む)は、財産は最終的に国のものになります。
特別縁故者の手続きの流れ
-
STEP 1相続財産清算人の選任を申し立てる利害関係人として、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる
-
STEP 2公告・相続人の捜索家庭裁判所の公告などで、相続人や債権者がいないか確認する
-
STEP 3特別縁故者への財産分与を申し立てる相続人がいないことが確定してから3か月以内に申し立てる
-
STEP 4家庭裁判所が判断する縁故の程度などを考えて、分与するかどうか、いくら分与するかを決める
相続財産清算人の選任の申立てには、予納金が必要になることがあります。
分与は家庭裁判所の判断で、全額が認められるとは限りません。時間もかかるので、遺言書で準備しておくほうが確実です。
遺族年金・未支給年金は受け取れることがある
年金の制度では、事実婚(内縁)の配偶者も「配偶者」として扱われる場合があります。
- 遺族年金:亡くなった方に生計を維持されていた事実婚の配偶者は、遺族基礎年金(子がいる場合)や遺族厚生年金を受け取れることがある
- 未支給年金:亡くなった方と生計を同じくしていた事実婚の配偶者は、未支給年金を請求できる
請求には、戸籍上の配偶者がいないことの確認や、事実婚関係・生計同一関係を証明する書類(第三者による証明など)が必要です。
詳しくは年金受給者が亡くなったときの手続きで解説しています。
借家(賃貸住宅)に住み続けられる?
亡くなった方の名義で借りていた賃貸住宅に、内縁の配偶者が一緒に住んでいた場合は、次のように扱われます。
| ケース | 扱い |
|---|---|
| 亡くなった方に相続人がいない | 事実上夫婦と同様の関係にあった同居者は、借地借家法36条により、借家の権利を受け継げる |
| 相続人がいる | 借家の権利は相続人が受け継ぐが、判例では、内縁の配偶者は相続人の借家権を援用して住み続けられるとされている |
家賃の支払いや契約の名義の変更については、大家さんや管理会社とよく話し合いましょう。
亡くなった方の持ち家に住んでいた場合
持ち家は相続人が受け継ぐため、内縁の配偶者は、原則として住み続ける権利を主張できません。
判例には、内縁の夫婦が共有する不動産に住んでいたケースで、一方が亡くなったあとも他方が単独で使えるとの合意があったと推認したものもありますが、事案によります。
住み続けたい場合は、遺言で自宅を遺贈してもらうなどの準備が必要です。
相続税での扱い
内縁の配偶者が遺贈で財産を受け取った場合、相続税は次のように扱われます。
- 基礎控除の「法定相続人の数」に入らない
- 配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)は使えない
- 相続税の2割加算の対象になる
- 生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えない
法律上の配偶者に比べて、相続税の負担は重くなりがちです。財産が多い場合は、税理士に相談しておきましょう。
内縁の配偶者との間の子
内縁の夫婦の間に生まれた子は、父親が「認知」すれば、父の相続人になります。
2013年の法改正で、婚姻していない夫婦の子(非嫡出子)の相続分は、婚姻している夫婦の子と同じになりました。
父が認知していない場合は、父の相続人になりません。生前に認知するか、遺言で認知することもできます。
パートナーが亡くなったあとに内縁の配偶者がすること
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STEP 1遺言書があるか確認する自宅、貸金庫、法務局の保管制度、公証役場(遺言検索)を確認する
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STEP 2相続人に連絡する亡くなった方の子・親・兄弟姉妹などの相続人に、亡くなったことを伝える
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STEP 3財産に手をつけない遺言書がなければ財産は相続人のもの。預金を勝手に引き出すとトラブルになる
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STEP 4年金の手続きをする遺族年金や未支給年金を受け取れるか、年金事務所に相談する
-
STEP 5住まいについて話し合う借家なら大家さん、持ち家なら相続人と今後を話し合う
自筆の遺言書が自宅で見つかった場合は、開封せずに家庭裁判所で検認を受けます。詳しくは遺言書の検認とはで解説しています。
葬儀代を立て替えた場合
内縁の配偶者が葬儀代を立て替えた場合は、相続人に負担を求めることを話し合います。
葬儀代を誰が負担するかは法律で決まっていないため、領収書を保管し、相続人と早めに話し合っておきましょう。
内縁の配偶者と相続人のトラブルを防ぐには
内縁の配偶者と、亡くなった方の子や兄弟姉妹は、もともと関係が薄いことも多く、相続のときにトラブルになりやすい関係です。
- 遺言書を公正証書で作る:内容や本人の意思を争われにくい
- 付言事項で気持ちを伝える:なぜ内縁の配偶者に財産を残すのかを、遺言書に書いておく
- 遺留分に配慮する:子や親には、遺留分に相当する財産を残す内容にしておく
- 財産の記録を分けておく:2人のお金と、それぞれの財産を区別できるようにしておく
生活費を一緒に出していた口座などは、どちらの財産かが争いになりやすいので注意しましょう。
モデルケース:遺言書がある場合・ない場合
たとえば、内縁の夫が亡くなり、夫には前妻との間の子が1人いて、夫の財産が自宅と預金という場合で考えます。
| 比べるところ | 遺言書がない場合 | 「全財産を内縁の妻に遺贈する」遺言書がある場合 |
|---|---|---|
| 財産を受け継ぐ人 | 子がすべて相続する | 内縁の妻が遺贈を受ける |
| 内縁の妻が住み続けられるか | 子の了解がなければ難しい | 自宅を受け継げるので住み続けられる |
| 子の権利 | - | 遺留分(遺産の1/2)の金銭を請求できる |
遺言書があっても、子から遺留分を請求されると、内縁の妻はお金を払う必要があります。
預金や生命保険で遺留分に相当するお金を用意しておくなど、遺言書と一緒に準備しておくと安心です。
遺言で財産を渡す遺贈の仕組みは遺贈とはで説明しています。
相続人がいない場合の特別縁故者の申立ては相続財産清算人とはで説明しています。
相続税がかかりそうな場合や、申告が必要か迷う場合は、税理士に相談すると具体的な税額を確かめられます。
法律上の配偶者が自宅に住み続けられる権利は配偶者居住権とはで説明しています。
よくある質問
内縁の妻は、夫の葬儀の喪主になれますか?
喪主に法律上の決まりはないので、内縁の配偶者が喪主を務めることもできます。
内縁関係を証明するには何が必要ですか?
住民票で同じ世帯になっている(続柄が「妻(未届)」など)、生活費を一緒に負担していた記録、周りの人の証言などが、内縁関係を示す資料になります。
今から婚姻届を出すべきですか?
婚姻届を出せば、法律上の配偶者として相続人になり、配偶者の税額軽減なども使えます。
事情があって婚姻届を出さない場合は、遺言書などで早めに準備しましょう。
内縁の夫の預金を、葬儀代のために引き出してもいいですか?
亡くなった方の預金は、相続人のものです。
内縁の配偶者が勝手に引き出すと、相続人から返還を求められることがあります。
葬儀代などで必要な場合は、相続人に相談してから進めましょう。
内縁の配偶者が遺言執行者になれますか?
なれます。
遺言執行者は、未成年者や破産者でなければ誰でもなれます。
遺言書で内縁の配偶者を指定しておけば、預金の解約や名義変更を進めやすくなります。
内縁の配偶者は、亡くなった方の借金を払う必要がありますか?
内縁の配偶者は相続人ではないので、原則として亡くなった方の借金を受け継ぐことはありません。
ただし、自分が連帯保証人になっている借金や、日常の家事のための借金などは、支払いを求められることがあります。
内縁の配偶者は、亡くなった方の遺品を持ち帰れますか?
亡くなった方の遺品は、原則として相続人のものです。
内縁の配偶者自身の持ち物や、2人で一緒に買った物は別ですが、どちらの物かがはっきりしない場合は、相続人と話し合いましょう。
内縁の配偶者に、介護のお礼として財産を請求する権利はありますか?
相続人以外の親族が介護などに貢献した場合の「特別寄与料」は、親族(6親等内の血族・3親等内の姻族)に限られます。
内縁の配偶者は親族にあたらないため、特別寄与料は請求できません。
介護のお礼を含めて財産を残したい場合は、遺言書で準備しておく必要があります。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。
遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。
詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:民法890条・958条の2・964条・1042条/借地借家法36条/最高裁判所平成12年3月10日決定/日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」(2026年9月25日確認)

