相続人の中に、何年も連絡がとれず、どこにいるか分からない人がいると、相続の手続きが止まってしまいます。
遺産分割は相続人全員で行う必要があり、行方不明の人を除いて話し合っても無効になるからです。
このような場合は、家庭裁判所の「不在者財産管理人」や「失踪宣告」の制度を使って手続きを進めます。
この記事では、民法と裁判所の案内をもとに、行方不明の相続人がいる場合の進め方、2つの制度の違い、申立ての方法と費用を説明します。
- 行方不明の相続人を除いた遺産分割協議は無効。まず戸籍の附票などで住所を探す
- 見つからなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、その管理人が行方不明者の代わりに遺産分割に参加する
- 管理人が遺産分割に参加するには、別に家庭裁判所の権限外行為許可が必要
- 生死が7年間分からない場合は、失踪宣告で法律上死亡したとみなすこともできる
- どちらの申立ても収入印紙800円と郵便切手が必要。失踪宣告は官報公告料5,298円もかかる
行方不明の相続人がいると何が困るか
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければ成立しません。
行方不明の人を除いて話し合っても、その協議は無効です。
| 手続き | 行方不明の相続人がいると |
|---|---|
| 遺産分割協議 | 全員の合意ができず、協議が成立しない |
| 預金の解約 | 遺言がなければ、相続人全員の署名・実印が必要なため進まない |
| 不動産の名義変更・売却 | 遺産分割ができず、特定の相続人の名義にしたり売ったりできない |
| 相続税の申告 | 期限までに分割できないと、特例を使えない状態で申告することになる |
遺言書で財産の分け方が決まっていれば、遺産分割をしなくても手続きを進められる場合があります。
遺言の内容を実現する手続きは遺言執行者とはで説明しています。
まず住所を探す

「連絡がとれない」だけで、住所は分かることもあります。
家庭裁判所の手続きを使う前に、次の方法で住所を探しましょう。
- 相続人を確定させるために集めた戸籍で、行方不明の人の本籍を確認する
- 本籍地の市区町村で戸籍の附票を取り、住所の移り変わりを確認する
- 最後の住所に手紙を送る(返事がなくても、住んでいる場合がある)
- 親族や知人に心当たりを聞く
戸籍の附票には、その戸籍に入っている間の住所の履歴が記録されています。
戸籍の集め方は相続の戸籍謄本の集め方で説明しています。
住所が分かっても話し合いに応じてもらえない場合は、行方不明ではないので、家庭裁判所の遺産分割調停を使うことになります。
調停の流れは遺産分割調停とはで説明しています。
不在者財産管理人と失踪宣告の違い

| 比べる点 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 使える場面 | 住所を去り、容易に戻る見込みがない人がいる | 生死が7年間分からない(危難にあった場合は1年間) |
| 効果 | 管理人が、行方不明の人の財産を管理し、代わりに手続きをする | 行方不明の人を法律上死亡したものとみなす |
| 行方不明の人の相続分 | 行方不明の人のために確保される | 行方不明の人の相続人(その子など)が引き継ぐ |
| 費用(裁判所) | 収入印紙800円、郵便切手、予納金を求められることがある | 収入印紙800円、郵便切手、官報公告料5,298円 |
行方不明になってからの期間が短い場合は、不在者財産管理人を使うのが一般的です。
不在者財産管理人の選任
不在者財産管理人は、行方不明の人(不在者)に代わって、その人の財産を管理・保存する人です(民法25条)。
家庭裁判所が選任し、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる人、債権者など)、検察官 |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手 |
| 予納金 | 不在者の財産から管理の費用や報酬が出せないおそれがある場合に、申立人が納めることがある |
| 主な添付書類 | 不在者の戸籍謄本と戸籍附票、管理人候補者の住民票、不在の事実を示す資料、不在者の財産に関する資料、利害関係を示す資料 |
「不在の事実を示す資料」には、手紙が宛先不明で戻ってきた封筒や、警察に出した行方不明者届の受理番号などが使われます。
遺産分割には権限外行為許可が必要

不在者財産管理人は、財産を保存する行為などは自分の判断でできますが、遺産分割や不動産の売却は、家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得てから行います(民法28条)。
遺産分割の内容は、原則として、不在者の法定相続分を確保するものでなければ許可されにくいとされています。
許可を得たら、管理人が不在者の代わりに遺産分割協議書に署名・押印します。
遺産分割協議書の書き方は遺産分割協議書の書き方で説明しています。
失踪宣告
失踪宣告は、生死が分からない人を、法律上死亡したものとみなす制度です(民法30条・31条)。
| 種類 | 要件 | 死亡したとみなされる時 |
|---|---|---|
| 普通失踪 | 生死が7年間明らかでない | 7年の期間が満了した時 |
| 危難失踪 | 戦争、船の沈没、震災などの危難にあい、危難が去った後1年間生死が明らかでない | 危難が去った時 |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる人、財産管理人、受遺者など) |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分、郵便切手、官報公告料5,298円(裁判所の指示があってから納める) |
| 主な添付書類 | 不在者の戸籍謄本と戸籍附票、失踪を示す資料、申立人の利害関係を示す資料 |
家庭裁判所は、不在者や不在者の生存を知っている人に届出を求める催告(公告)をし、その期間が過ぎてから失踪宣告をします。
そのため、申立てから宣告まで時間がかかります。
失踪宣告を受けたら、10日以内に市区町村に失踪の届出をします。
失踪宣告と相続の関係
失踪宣告を受けた人は、死亡したとみなされた時点で亡くなったものとして扱われます。
行方不明の人が親より先に死亡したとみなされる場合は、その人の子が代襲相続人になります。
また、行方不明の人自身の財産についても、相続が始まります。
代襲相続の仕組みは代襲相続とはで説明しています。
本人が生きていた場合
失踪宣告を受けた人が生きていることが分かった場合は、本人や利害関係人の請求で、家庭裁判所が失踪宣告を取り消します(民法32条)。
失踪宣告によって財産を得た人は、現に利益を受けている限度で返す必要があります。
相続税の申告期限に間に合わないとき
相続税の申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)までに遺産分割ができない場合は、法定相続分で分けたものとして申告します。
その際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておくと、あとで分割がまとまったときに、小規模宅地等の特例などを使えるようになります。
分割後の手続きは相続税の更正の請求で説明しています。
相続税の申告が必要な場合は、相続税に詳しい税理士に相談しましょう。
相続人と連絡がつかず登記ができないときは、相続人申告登記のやり方(必要書類・申出書の書き方)で自分の分の義務を果たせます。
よくある質問
行方不明の相続人の分を除いて、ほかの相続人だけで分けられますか?
できません。
相続人全員が参加しない遺産分割協議は無効です。
行方不明の相続人に相続放棄をしてもらえますか?
相続放棄は本人の意思で家庭裁判所に申述する手続きなので、行方不明の人に代わって、ほかの人が放棄することはできません。
不在者財産管理人の仕事はいつ終わりますか?
不在者が見つかった、不在者の死亡が分かった、失踪宣告がされた、管理する財産がなくなったなどの場合に終わります。
遺産分割が終わっても、不在者が取得した財産の管理は続くことがあります。
まとめ
監修者
行政書士(2018年11月開業)・社会保険労務士試験合格。遺産分割協議書の作成や相続人の調査(戸籍の収集)など、相続の書類づくりに携わっています。
このサイトでは、法務局・裁判所・国税庁・金融機関などが公表している一次資料で確かめた内容だけを書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。
参考資料:民法25条・28条・30条〜32条/裁判所「不在者財産管理人選任」「失踪宣告」/戸籍法94条(2026年10月2日確認)

